松浦祐己のコラム「努力呼吸が大事」

 

 

2019年のNHK大河ドラマ「いだてん~東京オリムピック噺(ばなし)~」の主人公 金栗四三の走行時の呼吸法は、「スッスー」と2回連続して鼻から空気を吸い、「ハッハー」と2回連続して口から吐くことでした。

彼にとって2回連続呼吸は、体に必要なエネルギーを作るためのものでした。エネルギーは「呼吸」によって得た酸素で、燃料即ち食物の栄養(糖、脂肪、たんぱく質、その他)を「酸化する」ことで得られます。燃やすことを科学的には酸化するといいます。

彼は鼻から多く酸素を取り込み、口からは二酸化炭素をいっぱい吐いて呼吸効率を良くしたのです。

吸って体に必要な酸素を取り入れ、吐いて不必要な二酸化炭素を排出する呼吸のしくみのことを「ガス交換」といいます。

ガス交換は肺での空気との「外呼吸」と細胞での毛細血管との「内呼吸」の2か所で行われます。

人は普通、1回にペットボトル1本程度、約500 mlの空気を吸うといわれます。しかし、吸った空気のすべてが肺胞に達するわけではありません。鼻腔や気管・気管支にたまったままでガス交換に使われない空気(死腔(しこう)換気量)が約150 mlありますので、実際に換気されるのは約350 mlに減ります。これを肺胞換気量(500−150=350 ml)といいます。

 

浅い呼吸、深い呼吸の場合を考えてみましょう。

浅く速い呼吸をした場合の吸気量は約250 ml、死腔換気量150 mlを差し引くと肺胞換気量は100 mlになります。

ゆっくり深く呼吸をした場合の吸気量は約1000 ml、死腔換気量150 mlを引いた肺胞換気量は850 mlになります。

 浅い呼吸を4回して1000 mlの吸気量を得たとしても、死腔換気量も4倍の600 mlになるので肺胞換気量は400 mlにしかなりません。

 

ゆっくり深い呼吸のほうが効率のよいガス交換ができることがわかります。

肺は取り込んだ酸素を約37兆個の細胞に送り届けるので、肺胞換気量が少ないと健康に大きな影響が出ます。意識的に多く息を吐き出すことで、より多くの空気を吸い込むことができます。このように意識的に呼吸をすることを「努力呼吸」または「意識呼吸」といいます。

 

人は加齢とともに老化が進むと、呼吸筋が硬くなって可動域も狭まります。吐き出す力が衰えれば多くの空気が肺に残ったままになって、空気不足や息苦しさを感じるようになります。

 

刑事ドラマで刑事が容疑者に言います。「吐け、吐けば心が楽になる」と。

私たちは深い呼吸をして新鮮な酸素を取り込んで体が楽になるように心掛けましょう。

 

 

日本健康づくり協会代表 

    松浦祐己 

  (まつうらゆうき)